素直な気持ちを、ちゃんと伝えることができれば、
世の中はもっと幸せに溢れる。
想いを伝えられないことが、誰もの幸せを抑え込んでいる。
そのことを、私はある仏像を通して教えてもらう機会に恵まれた。
私は今、日本の美を専門に取材する「ケンボックス」という雑誌社で、
仏像特集を組んでいる。
仏像っていうと、なんか年季の入った趣味って思われるけど、
いいえ、こんなにお洒落な趣味ってないよ。
仏像の中でも、私が注目しているのは不動明王ね、不動明王。
破壊と救済という対極を合わせ持った、なんとも華やかで眩しい存在。

今日はカメラマンを連れて、京都の東寺に来ている。
東寺には有名な不動明王がいるから、その魅力を伝えるためなら、
私は日本中どんなお寺でも回りましょう。
ねぇ、ちょっと不動明王のことを語らせてもらってもいい?
あなたもきっと見たことがある。
不動明王って、すごく外見が怖いやつ。
周りに睨みを利かせて、口からは牙が飛び出し、手には刀剣を持ち、
背中で怒りの炎が燃え上がっている。
見るからに怖い人、始終怒っている頑固オヤジみたい。
しかも怒り方がプリプリ、って感じじゃなくて、
ガーっていう風に、心の底から本気で怒っているの。
子供が見たら泣いちゃうんじゃないかってぐらい、本当に怖いのが不動明王。
何が羨ましいって、不動明王は自分の感情に子供のように素直なの。
でもね、ちょっと調べれば当たり前かも。
だって、不動明王って、童子の体型をした仏像なんだもん。
寸胴の体型はまるっきりおこちゃまでね、
悟りをひらいた仏様ってイメージじゃないから、なんか愛着を感じる。
一見、怒りまくっているおじさんかと思ったのに、子供なんだから、
自分の感情に素直っていうか、純粋なのも自然だよね。
インパクトが強い仏像だなぁ、って思って更に調べていくと、面白いことが続々。
怒りと破壊のイメージを前面に出しているくせに、
不動明王は人々を救済する役割を持った仏様だった。
大日如来という、誰もがははぁ〜って手を合わせたくなる
ソフトタッチ系のありがたい仏様がおられる。
世の中には、そんな仏様さえ無視してしまう、
聞き分けのない人たちもいるけど、そういうマイナーな人たちを、
強引に説得して仏の道に感化させてしまおうと、
大日如来が送り込んだハードなメッセンジャーが、不動明王。

怖い?押し売りみたい?
でもね、仏教の考え方では、不動明王がいるからこそ、
あらゆる人々が救済されることができる、と言われているの。
いつまでも自分の常識だけに固執して、大海に目を開かない人っているでしょう。
不動明王の目的は、そういう視野の狭い人たちさえも救済すること。
ただね、やり方がちょっと強引で、強面と炎と剣で脅して、
最初は無理矢理、そして次第に仏の道に引きずり込んでしまう。
結果、その人がきっと幸福になれるんだから、
まぁ、不動明王は必要悪っていうか、
世の中には欠かせない存在なのかもしれない。
仏様たちの、ソフトとハードの使い分けってことね。
自ら心を開かない人たちに、世の中の大半の人たちが良いと思う、
おおよそ善良なものを強引に教え込む。
うん、それは分かるよ、私の周囲にも無理矢理でも引っ張り込みたい臆病者っているから。
分からないのは、不動明王がどうしてそんな辛い憎まれ役を買って出ているか、ってこと。
何かそこに私を魅せるものがあって、不動明王の存在が、私の胸をドキドキさせていた。 |